診療室から Vol.60 ゼロカロリーで痩せる?

ダイエット飲料水をよく飲む人 止めてお茶に変えてみませんか

宣伝文句の「ゼロカロリー」飲料水は
本当に、体重に悪影響を与えないの?

 近年、ゼロカロリー、糖類ゼロ、オールフリー、特定保健用食品……などなどという、健康ブームに乗った宣伝がなされているのをよく目にします。体重の増加や脂肪率が気になる人たち、そして健康志向の人にとっては、これらの宣伝文句の清涼飲料水などは、「心強い味方」のように思われているのではないでしょうか。  
 スタイルのよい女性が、これらの飲み物を爽(さわ)やかに一気に飲み干すCMを見ると、「ちょっと体重が増えてきたし、飲み物はゼロカロリーに変えようか」という気になってしまうものです。  
 しかし、宣伝されている通り、本当にゼロカロリー飲料は体重に悪影響を与えないのでしょうか?

日常的に人工甘味料に曝されることで
常に甘い物を欲する「甘味依存症」に
 
 ゼロカロリー飲料には、甘味を付ける目的で砂糖の代わりに人工甘味料が使われています。具体的な人工甘味料の種類としては、アスパルテーム、アセスルファム、スラロースなどが一般的です。  
 これらの人工甘味料は、一般的に砂糖に比べて糖度は高いです。また、砂糖に比べると、非常に少ないカロリーで、砂糖と同じ甘さに味付けをすることができます。  
 それぞれの表示の基準としましては、500mlの清涼飲料水の場合を考えると、ゼロカロリーで25kcal以下、カロリーオフで100kcal以下、糖類ゼロは糖類が2.5g未満となっております。一般的な炭酸飲料水は500mlで200kcal以上あることを考えると、かなり低カロリーです。  
 また、これらの人工甘味料が健常者におよぼす害は証明されていませんので、日常的に摂取する分量では、肝臓や腎臓などに悪影響をきたす恐れはありません。  
 このように安全性もあって、カロリーがカットできるという人工甘味料は、ダイエットをしているという人の強い味方のように思われがちです。  
 しかし逆説的なことに、近年これらのゼロカロリー飲料が、体重増加の原因になっているという研究結果が報告されてきています。太らないようにと思い飲んでいるのに、逆に太ってしまうとは、一体、どういうことなのでしょうか。  
 ゼロカロリー飲料を飲んでいるのに太っているという人の共通点は、甘い物が好きで、その欲求を抑えるために日常的にゼロカロリー飲料を飲んでいる人が多いということです。  
 このような人たちは、カロリーを気にしているがゆえに、ゼロカロリー表示に安心感を懐(いだ)いています。さらに罪悪感なく飲めるこれらの飲料を重宝しています。  
 そのために、このような安心感から、甘い物が欲しくなったらゼロカロリー飲料を飲んでしまい、甘味に対する欲求を我慢することがありません。  
 結果して、このように、日常的に人工甘味料の甘味に曝(さら)されることによって、甘味を摂取しないと我慢ができなくなる「甘味依存症」になってしまうのです。  
 人工甘味料との比較として、まず糖分を摂取した際に、私たちの体内ではどのような反応が起きているのかを考えてみましょう。

糖類より人工甘味料で味付けした餌を
食べたラットに、体重増加の実験結果が
 
 糖分を摂取すると、舌の味覚受容体で甘味を感知します。そして脳に対して、これからエネルギーが取り込まれるということを伝達します。  
 その際に、脳のドーパミンという伝達物資が司っている報酬・快楽経路の領域を活性化するので、私たちは、甘い物を「美味(おい)しい」とか「もっと欲しい」とか思うわけです。  
 ドーパミンは別名「やる気物質」とも呼ばれております。これが分泌されることで「何かをやりたい」という意欲や、それを実行する行動力、集中力が発揮されます。美味しい物を食べたり、自分の好きなことをしたりしている時に、「快い」と感じるのもこの物質が原因です。  
 また、ドーパミンが枯渇すると全身の筋肉を動かしにくくなったり、無気力になったり、注意散漫になったりしますので、日常生活には欠かせない、とても大事な脳内物質です。  
 しかし、ドーパミンの分泌量が多過ぎるのも問題です。ギャンブル依存症や薬物依存症などに見られるように、何かを止めたくても止められないという状態は、このドーパミンの働きが強過ぎることが原因です。  
 これらのことは、食事についても同様のことが言えます。我慢できずについつい食べ過ぎてしまうという人は、満腹感という「心地よさ」に依存しているのです。  
 人工甘味料は、糖類よりもドーパミンの報酬系に悪い影響を与えます。ダイエットソーダを習慣的に飲んでいるグループと、糖類を含むソーダを習慣的に飲んでいるグループを比較した実験があります。  
 それぞれのグループの人たちに、糖類と人工甘味料を摂取してもらい、脳の活動を調べた研究報告です。  
 その結果では、ダイエットソーダのグループの人たちのほうが、糖類を含むソーダを飲んだ人たちよりも、ドーパミンの関係する脳の部位に強い反応が見られました。  
 動物実験でも、人工甘味料で味付けした餌(えさ)のラットと、糖類で味付けした餌のラットでは、私たちと同様に、人工甘味料のラットのほうが餌の摂取量が増え、体重が増加しました。これらのことから、人工甘味料のほうが、糖類より甘味依存症になりやすいと言えます。  
 その原因は、甘味を脳が感じ、カロリーを予想するのに、実際には、カロリーがないために脳が混乱するとも、また、人工甘味料の強烈な甘味によって、甘味に対する反応性が低下するからであるとも言われています。しかし、詳しいことはまだ分かっていません。  
 若い女性ばかりではなく、メタボリック症候群と診断された働き盛りの中年の男性の中に、「ついつい食べ過ぎちゃうからダイエット飲料を飲んでいる」という人や、「よくダイエット飲料を飲んでいるけれど、最近甘味を感じにくくなった」という人がいます。このような人は要注意です。一度、それらの飲料を止めて、お茶やミネラルウォーターに変えてみてはいかがでしょうか。  
 健康的なダイエットを志すのであれば、まずは日常生活を見直すところから始めましょう。不規則な生活を余儀なくされている社会に生きている私たちではありますが、規則正しい生活を心がけ、特に食生活の改善を勧めます。


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