
生涯、自分の歯で食べられることほど、幸せなことはない
磨き残しの確認は、右上奥歯から
左上奥、下の歯へと舌で行ないます。
歯磨きは、ほとんどの人が日常生活において、習慣として行なっていると思いますが、果たして歯磨きの目的は何でしょうか。そうです。食物残渣(ざんさ)(食べかす)や、プラーク(食物残渣からできるばい菌の塊)の除去です。プラークが残っていると、虫歯、歯周病、口臭の原因になります。
朝晩、毎食後、歯磨きに長時間をかけても、磨き残しがあれば磨いていないことと同じです。強く磨きすぎて歯茎を傷つける、歯周病で歯根が出ていると、通常の磨き方では根が削れ、折れる原因にもなります。磨いているのに虫歯や歯周病になる人は、磨き残しが考えられます。
通常の正しい歯の磨き方は、歯と歯茎の境目に軽く歯ブラシ当て、力を入れずに小刻みに軽く振動させるというものです。しかしこれは、歯並びがきちんとしている、歯周病がない、または軽い人の場合です。口の中は十人十色で、口の大きさ、歯並び、歯の数、歯周病の有無や進行具合、唾液(だえき)の分泌量など環境が様々です。
また、年齢によっても磨き方は変わります。例えば、乳歯列、混合歯列 (乳歯と永久歯が混在)、高齢者の歯列などです。
歯を抜くとそこにブリッジや義歯が入ります。すると、磨き方も変わってきます。入れ歯は取り外して磨きます。歯列矯正の人は専門家の指導を受けることは必須です。また、歯周病になっている人は、歯茎のケアまで考慮して磨く必要があります。
歯磨き後は、きちんと磨けているか、次のようにして確認します。色のついた食物残睦は鏡で見て判りますが、プラークはほとんど歯と同じ色なので判りません。確認は舌、舌感でプラークを確認します。ということは、舌の汚れもきちんと落としプラークを感じる状態にしておく必要があります。
まず、右上の奥歯の奥側から、唇側にずっとゆっくりと這(は)わせて左上の奥歯へ、そこから口蓋(こうがい)側に行き、次に下の歯を。上下行ないます。
この作業は舌の筋トレになりますし、唾液腺も刺激します。舌先で歯間をなぞって「キュッキュッ」とした感覚があればなお良いと思います。残ったプラークがあると、ぬるっとした感じや、ざらつきがあります。
「キュッキュッ」とした感じを是非覚えて下さい。行きつけの歯科医院で歯石の除去、歯科衛生士に磨いてもらうことでポリシング(仕上げ磨き)の歯の面のつるつる感を覚えます。そして、日常でその状態が長く続くように、ブラッシング指導を受け、自身で習慣づけると歯磨きの効果が発揮できます。
また子供にとっても、この感覚を感じることはとても大切です。そのためにも、子育て中のお母さんは、お子さんの口の中を常に「見る」「見せる」の関係を持ち、口の中の良い環境作りをして下さい。これは成長の過程にも影響してきます。
歯磨きで肝心なのは、一日に1回は
丁寧で質の高い磨きをすることです。
歯磨きは、何時、何回、どれくらいの時間をかけたらいいのか。諸説ありますが、「一日3回、食後3分以内に3分歯を磨く」と言われてきました。毎食後の歯磨きは口の中をリフレッシュさせます。
食後3分以内という理由は、食後、口の中がpH5.5以下になると、エナメル質の脱灰(だっかい)(簡単に言うと虫歯が始まりかける)が始まるという理論です。
しかし、実際は食事中の唾液量の増加や、食後に飲むお茶や水でpHは中性に戻ります。家族や友人と食事した時は、食後3分以内の歯磨きは現実的ではありません。また、酸性に傾いたpHは30~45分くらいで中性に戻るので、食後、一服してからでもよいと思います。プラークが出来上がる時間は約24時間です。
毎食後に歯を磨くことは大切ですが、ライフスタイルも様々です。また磨けない時もあります。私自身、日常生活では行なっています。でもそれは、食物残直を取る、軽いブラッシングであることが多いです。
肝心なのは、一日に何回か歯磨きをするうちの1回を、丁寧な質の高い歯磨きを行なうことです。もちろん、一日1回になる日もあるかもしれません。
歯磨きは朝晩してほしいのですが、1回となれば休む前です。就寝中は、菌の増殖を抑える作用がある唾液の分泌量が減ります。そのため、口の中の菌が増えます。これを防ぐには、就寝前の歯磨きは有効です。また起床時の歯磨きは、寝ている間に増えた菌を除去するためです。これらのポイントを知って歯を磨くことが大切です。
規則正しい生活の中で自分に合った
歯磨きを身につけることが大切です。
歯ブラシは消耗品です。歯ブラシの換え時は、ブラシがヘッド(台座)部分の裏側の縁から出ていたら交換して下さい。裏面から毛先が2ミリ出ると、プラークの除去率が40パーセント落ちるという報告があります。
毎日使う歯ブラシや歯磨き粉は多種多様な物があります。ドラッグストアやスーパーに行って、歯磨き関連の商品が多く、迷ってしまいます。
歯ブラシの種類を大きく分けても、普通の歯ブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロス、粘膜ブラシ、舌ブラシ、電動ブラシ、義歯ブラシなどがあります。
さらに普通の歯ブラシでも、ブラシ部分が小型で平切のオーソドックスな物、ヘッドの形や植毛にバリエーションのある物、極細毛の物、複数の長さを使用した物、毛先に特殊な加工が施された物など、多くの種類があります。持ち手も、ストレート、カーブした物、ヘッドの付け根に角度がついていたり、形が特殊な物、持つ所が太くなった物など様々です。
歯磨き粉は、虫歯予防、歯周病予防はもちろんのこと、清掃効果を高めるための顆粒(かりゅう)配合、ステイン(沈着よごれ)除去を重視した物、歯を強くするためのフッ素が配合された物、虫歯や歯周病の原因になるプラーク中の多糖を分解する酵素が入っている物、知覚過敏を予防する成分が入った物などがあります。
歯ブラシや歯磨き粉は、CMの情報やデザインなど好みで選んでしまいがちですが、合っていない物の使用や間違った使い方は、症状を悪化させることがあります。とくに、歯磨き粉は、炎症(歯周病や虫歯)を治すものではないことを知って下さい。
自分の口の状態をよく知り、必要な自己管理をすることが第一です。そのためには歯科で口の状態を調べた上で、歯科衛生士に自分に合った歯ブラシを処方してもらい、自分に合った正しい磨き方を身につけることです。
虫歯、歯周病は生活習慣病の一つです。日常の歯磨きをきちんと行をつことでしっかりと予防ができます。日ごろのだらだらした飲食は、虫歯や歯周病のリスクが高くなります。
食生活に気をつけ、規則正しい生活の中で、個人のライフスタイルに合わせた歯磨きを行なうこと、身につけることはとても大切なことです。生涯、自分の歯で食事ができることほど幸せなことはないと思います。