世田谷文化

世田谷パブリックシアター 高萩 宏 館長

劇場は、人と人が出会う「広場」

演劇を見るためだけの場所ではなく、誰もが集まり、 思いがけない出会いが生まれる場所に──。

三軒茶屋のキャロットタワーにある世田谷パブリック シアターは、演劇やダンスの作品を創り、国内外へ発信するとともに、 地域の人々が演劇に触れ、参加できる活動にも取り組んできた。 高萩宏館長が語るのは、「劇場は、広場」という開場以来の理念。 その言葉の奥には、人と人が直接出会うことの大切さと、 世田谷にある劇場への思いがある。
世田谷パブリックシアター 高萩宏館長
高萩宏館長 撮影:白松清之

みんなが楽しんでくれることが好きだった

高萩館長と演劇との出会いは、幼稚園時代。 演じたのは「花咲か爺さん」のおじいさん役だった。 その後、小学校では人形劇をつくり、高校の文化祭では演劇に夢中になった。

「演じるよりも、みんなが楽しんでくれる、ということが好きだった」

大学では野田秀樹氏(現・劇作家、演出家)らと 「夢の遊眠社」を立ち上げ、演劇をつくる側として活動。 さらに劇場運営にも携わり、 「劇団と劇場は違う」と実感した。 劇団は一つの公演に向かって盛り上がることができる。 一方、劇場はそこにあり続け、さまざまな人を迎え続けなければならない。

「劇場は、広場」という考え方

世田谷パブリックシアターが掲げる 「劇場は、広場」という言葉は、 初代芸術監督・佐藤信氏が提唱したものだ。

「誰でもが集まれる場所。そして、集まった後、また散っていく」

劇場を演劇を観る人だけの施設にしてはいけない。 劇場から街へ、人が行き交う場所を目指している。

インターネットやAIによって、人と直接会わなくても 多くのことができる現在だからこそ、 劇場の役割は大きいと高萩館長は話す。

「本屋さんも、本を買うだけならインターネットでいい。 でも、本屋に行けば、探していたものとは違う本に目移りしたり、 全然違うものを見つけたりする。 そういう出会いが、たぶん広場なんですよね」

劇場にも、目的だけではない「余白」が必要だと言う。 舞台上の役者が汗をかき、息づかいを感じ、時には間違える。 そうした生身のコミュニケーションには、 既にでき上がっている画面を通した情報とは違う魅力がある。

「もうちょっとこう、隙間のある、余裕のあるコミュニケーションの 場としての劇場という存在は必要だと思います」

地域にも「物語」がある

劇場では、プロの俳優だけでなく、地域の人が舞台に立つ活動も行っている。 音楽やダンスを発表する「フリーステージ」や、 地域の人から聞いた話を舞台上で演じる取り組みなどだ。

地域の人の経験や物語を舞台にのせることで、 普段は気づかなかった地域の物語が共有されていく。

「地域には必ず物語がある。そして誰でも役者になれるんです」

2027年4月、主劇場が再開

現在、主劇場は改修のため休館中。 小ホールのシアタートラムで活動している。 2027年4月には主劇場も再開し、開場30周年という節目を迎える。

世田谷パブリックシアターは、舞台と客席が近く、 客席の角度を変えられるなど、演劇やダンスを 「体験する」ことを大切につくられた劇場だ。 音響にも工夫があり、舞台の隅で話す声もしっかり届くという。

高萩館長は、再開後には劇場そのものを知ってもらう機会も つくりたいと考えている。

「国際的にも一流なとてつもない空間が、ここにあってよかったねって、 みんなが思ってくれるように」

そして区民に向けて、こう語る。

「せっかくの施設なので、ぜひ来ていただきたいです」

劇場から街へ、街から劇場へ。 人が出会い、思いがけないものに触れる。 高萩館長が描く「広場」は、2027年春、再びその扉を開く。

世田谷パブリックシアター
所在地:東京都世田谷区太子堂4丁目1番地1号
電話:03-5432-1526
最寄り駅:三軒茶屋駅 徒歩2分