
子どもの虐待死、1年で45例も 原因の一つには望まない妊娠
誰にも相談できずに大きくなるお腹
大阪府で250例に一人が飛び込み産
子どもを虐待するという痛ましい事件が頻繁に、新聞やテレビジョンなどの報道で取り上げられています。このような、かわいい幼子に手をかけたり、育児を放棄したりするという信じられない事件に、わがことのように心を痛めている方も多いことと思います。
厚生労働省が平成22年に出した報告書では、分かっているだけでも、1年間に45例の虐待死があったとされています。
では、かわいいわが子を、なぜ虐待するのかということですが、それにはいくつかの原因が考えられます。その中の一つは、望まない妊娠や、思いがけない妊娠であったということが報告されています。
このような場合には、誰にも気づかれずに、産んだその日に死亡させていることが多いそうです。生理がこなくて、もしかしたらとあわてても、誰にも相談できないうちにどんどん大きくなるお腹を抱えて悩み、隠し続けた挙句、陣痛がきて、トイレなどで産み落とすこともあるといわれています。
このようなケースでは、妊産婦は、一度も妊婦健診も受けていません。陣痛で苦しみ、救急車でいきなり産婦人科に運び込まれると、それまでの経過も何も分からない妊婦さんの出産に戸惑う産婦人科医も多いと聞きます。大阪府では、1年間に250例に一人が、このような飛び込み産であったとの報告があります。
昔ならば、一緒に暮らす母親やおばあちゃん、または近所の人などが気がついて、妊産婦一人の、突然の出産まで至ることは少なかったと思います。
ところが、現代は核家族や共働き、片親などの家庭が多くなりました。また、多くの人が働き詰めであるために、わが娘、わが孫の異変に気がつかないようです。おまけに、稀(き)薄(はく)な近所付き合いや人間関係も災いしているように思います。
大阪府が「にんしんSOS」を開設
2年でメール等の相談は1884件にも
このような問題を話し合うために、今年の9月14日から17日にかけて、名古屋で「子ども虐待防止世界会議」が初めて日本で開催されます。そしてこの会議のサブテーマの一つに、「妊娠期からの親子支援」が挙げられています。
大阪府でも、このような望まれない妊娠から児童虐待につながるということに着目し、予防及び支援のために、2年前に全国に先駆けて、行政機関で初めて「にんしんSOS」を開設しました。パソコンで「にんしん」と打ち込んで検索すると、「にんしんSOS」がヒットして、そのページが開けます。
開くと、「思いがけない妊娠に悩むあなたの気持ちに寄り添って、必要な正しい情報を伝えたり、場合によっては……適切な支援サービスをご紹介します……」と、淡いピンクの優しい画面が語り掛けてきます。
この2年間の「にんしんSOS」の成果が、先日、大阪で開かれた研究会で発表されました。この2年間で、利用者は半期ごとに約2倍に増え、メールと電話の相談は1884件にものぼっていました。
相談は大阪府にとどまらず、全国から、そして留学中の海外からも寄せられるといいます。相談者の年代では、分かっている範囲では10代が509件と最も多いそうです。
相談員は、メールや電話で相談してきた相手の話をよく聞き、妊娠や出産についての知識や情報を与え、必要があれば、保健センターや医療機関を紹介しています。
実際にどのような相談がくるかということでは、さすがに、電話でいきなり妊娠したとは話しにくいのでしょうか、避妊の仕方などの相談から始まることもあるそうです。その後よく聞くと、生理が止まっていて、すでに妊娠反応が出ているとなるようです。 「パートナーは14歳の同級生で今電話している隣にいる。自分の家も相手の家も、一人親家庭なので親に迷惑をかけたくない。中絶のお金もなくどうしたらよいのか?」と続きます。
また、20代後半の女性からのメールでは、「妊娠したが、相手が誰なのか分からない。悩んでいるうちに中絶のできる時期を過ぎてしまって、出産時期が迫っている。お腹も目立ってきて、どうしたらよいのか分からない」というようなものもあるといいます。
20代の2例目は大阪府外であったので、その地域の保健センターに支援の要請をしたところ、その直後に無事に出産し、出産後も保健センターが見守り続けているそうです。そして、その女性から後日メールが「にんしんSOS」に届き、「相談していなければ、生まれたわが子をどうしたか分からなかった」という、感謝の内容であったそうです。
子どもたちのためにも、相談のできる
公的機関を広く知らせることが大切
望まない妊娠というものが、どのようなケースで起こるのかということでは、夫や恋人以外との妊娠、夫や恋人が望んでいない妊娠、パートナーが複数いて誰の子どもか分からない、出産育児のお金がない、避妊具を買うお金がない、学業中である、相手からDVを受けているなどの場合があるといいます。
これらの状況で妊娠した妊婦は、産婦人科には一度もかかっておらず、また、母子手帳ももらっていないことが多いそうです。そして、このような状態で出産まで至った場合は、その後、虐待につながることが多く、ひどい例は、「生後0ヵ月0日死亡」ということになりかねないといわれています。
「にんしんSOS」の相談員は、大阪の公立病院の保健師と、助産師さんが2名で務めています。相談が進んでくると、「無防備な性行為を避けて、肝心な時に妊娠できるように自分の身体を大切にしなさい」というような話もするそうです。
小、中、高といった思春期の出発時点からの性教育だけでなく、道徳教育の重要性を話されていたのが印象に残りました。
本人と子どもたちの明るい未来を守るためにも、こういった「にんしんSOS」やその他「子育て支援センター」や「女性相談センター」などを、気軽に相談できる公的機関として広く知らせることが大切だと思いました。