診療室から Vol.50 緑内障

緑内障患者の9割が自身では気づかぬ潜在患者

緑内障は、見える範囲が狭くなり
進行すると、視力を失う重篤な病気。

 緑内障は、紙筒を通して物を見るように、見える範囲(視野)が狭くなり、進行すると視力を失うことがある病気です。  
 目の中には、房水と呼ばれる水があり栄養などを運びます。房水は虹彩(こうさい)の後ろの毛様体上皮で作られて眼球を満たしています。そして白目と茶目(虹彩)の境目の隅角(ぐうかく)にある管から出て行きます。目の形はこの房水の圧力によって保たれ、これを眼圧と呼びます。  
 房水は眼の中の水晶体(レンズ)を潤し、虹彩の裏側から瞳孔(どうこう)を通り、透明な角膜に裏側から栄養を補給します。その後、老廃物を受け取り、茶目と白目の境目にある隅角と呼ばれる出口から眼球の外に出て行きます。房水は、目の形や張りや固さを眼圧で調節する働きもします。  
 また、目の底にはフィルム(網膜)があり、デジタルカメラの画素子のように、光や三原色を感じる細胞がたくさんあります。その画素子からは神経線椎(電線)が出ています。それが視神経乳頭に集まって、向きを変え垂直の束となり、脳のほうに視神経となって情報を伝えるという仕組みになっていて、まるでグラスファイバーの束の飾りのようです。
 
緑内障は眼圧・眼底・視野の検査が。
人問ドックで異常あれば再受診を。
 
 緑内障の診断には、眼圧・眼底・視野検査などが行なわれます。人間ドックなどで異常があった場合は、必ずもう一度眼科医の診察を受けるようにしましょう。  
 眼圧検査には、直接、目の表面に測定器具を当てて測定する方法と、目の表面に空気を当てて測定する方法があります。正常値は10~21mmHgですが、人により差は大きく視野異常の時は15mmHg以下が望ましいとされています。  
 眼底検査では、脳への回路(視神経)の状態を診るために視神経乳頭部を診察します。視神経が障害されている場合は、陥凹(へこみ)の形が正常に比べて変形し大きくなります。緑内障発見のための必須の検査です。  
 定量的に変化を測定記録できるOCT(optical coherence tomography)という光干渉断層計や、HRT(視神経乳頭解析装置)、また眼底カメラでより早く見つけることもできます。 偶然この検査を受けて、自覚的には無症状の緑内障が見つかることが度々あります。  
 視野検査は、動的視野計(約外方90度、上方60度、下方70度、内方60度の見える範囲の異常)、静的視野計(主に中心30度の異常)などの検査で、視野の見えない範囲の存在や広さから緑内障の進行の具合を判定します。OCT三次元画像解析装置は時間も短縮され有効な検査でしょう。  
 その眼内の房水が作られすぎたり、出口が目詰まりすると眼圧は上がり諸症状が出ます。庄が高くなると目の底が圧迫されます。すると網膜の神経が圧迫され、ちょうど、正座をしていて足が痺(しび)れるように神経が麻痺(まひ)します。  
 長い時間その状態が続くと、櫛(くし)の歯が欠けるように神経線維が傷んでいきます。長い距離の神経や、圧迫に弱い場所にあるものがまず傷害され、視野が欠けることになります。  
 しかし、中期までは自覚症状は少なく、見つかった時には進行していることが多くあります。視神経の障害はゆっくりと起こり、視野も少しずつ狭くなって行くため、目に異常を感じることはありません。  
 時に、急性緑内障で急激に眼圧が上昇し、頭痛、吐き気や目の痛みなど激しい症状を起こすこともあります。時間が経つほど治りにくくなるので、このような急性閉塞(へいそく)隅角緑内障の発作が起きた場合はすぐに治療を行ない、眼圧を下げる必要があります。

遺伝関係は明確ではないが、家族に
緑内障の人がいれば定期検診を。
 
 緑内障は、病気の進行を止めるために眼圧を低くコントロールすることが最も有効とされています。治療法としては、薬物療法、レーザー治療や観血手術が一般的です。しかし眼圧が下降しても、その効果が維持されるとは限らず、再度手術を行なう場合もあります。  
 眼圧を下げるための薬物療法は、房水の産生量を減らしたり、房水の流れを良くするためのものです。まず点眼薬から始め、最初は1種類の薬で様子を見、途中で2~3種を併用することもあります。点眼薬だけでは効果が不十分な場合、内服薬を併用することもあります。  
 点眼時の注意点は、回数・量を守り、点眼後は目頭を軽く押さえて下さい。二つ以上の目薬を点眼する時は、5分程度間隔をあけるようにしましょう。点眼や内服薬により副作用が現れることがあります。目や全身に症状が出た時はすぐに医師に相談しましょう。  
 レーザー治療は急性や狭隅角緑内障の場合で、眼圧コントロールが不十分な場合、レーザーを虹彩周辺部に当て、穴を開けたり線維柱帯に当てて房水の流出を促進します。比較的安全で痛みもなく、入院の必要もありません。  
 手術では、房水の流れを妨げている部分に特殊な小さなストローを入れたり、切開し流路を作ったり、毛様体での水の産生を押さえる方法などがあります。日常生活で特に気をつけることはありません。医師の指示を守り、健康的で無理のない規則正しい生活を心がけましょう。  
 ほとんどの緑内障は自覚症状がなく、病気の進行に気づかないことが多いです。  
 また、緑内障の遺伝関係ははっきりとはしていませんが、この病気の人が多くいる家系があります。家族に緑内障の方がいるなど思い当たる場合は定期的に受診されたほうが良いでしょう。重ねて言いますが、この病気の進行は年単位です。  
 2000年に、岐阜県の多治見市で一般市民を対象に緑内障疫学調査が行なわれ、その結果、40歳以上の人口のうち、緑内障患者は5・0%、20人に1人と予想以上に多いことが判りました。また、緑内障患者の約9割が、自身では緑内障と気づいていない潜在患者であることも判りました。  
 緑内障は日本を含め、諸外国においても失明原因の上位に位置します。悪化する前にできるだけ早期に発見し、治療を開始することが大切です。


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