
国民の2人に1人が「がん」に 適切な治療で意義ある生活を
進行、再発がんで病変の完全除去は
無理でも、 元気に過ごすことを目標に
3年前の本誌(平成21年11月号)のこのコーナーで「がんのお話」という テーマで一度がんについて取り上げました。その時は、「がん」という病気 について広くいろいろと説明しましたが、今回は「進行がん」「再発がん」 を患った時の療養方法について記します。
平成23年の厚生労働省人口動態統計によりますと、悪性新生物、いわゆる 「がん」による死亡者数は35万7305人で、日本人の死因の第1位です。さら に、40歳から80歳の各年齢層においては死因の第一位、また高齢化を反映し て、80歳以上の死亡者数は約14万人を占めています。
国民の二人に一人が「がん」に罹(かか)っているのが今日の日本です。ガンを克服するためには、予防・早期発見・早期治療はもちろん重要ですが、診断時に、すでに病変が広い範囲に進展している「進行がん」や、手術や化学療法などの治療を受けた後に再度病変が見られる「再発がん」では、がんそのものを完全に治すことは残念ながら現時点では困難になります。
進行がんと診断された場合、手術・抗がん剤・放射線などの積極的な治療 により、たとえ病変を完全に取り除くことはできなくても、元気に過ごすこ とのできる期間を、一日でも長く伸ばすことも治療の目的となります。
同様に、再発がんについても適切な治療を選択することによって、QOL( 生活の質)の保たれた、意義のある時間をつくり出すことを目指します。
外来でのがん治療の前提条件は
基幹病院とがんかかりつけ医の連携
がんの治療というと、入院して行われるイメージが強いと思いますが、現在、手術治療以外は、外来での治療が可能になってきています。抗がん剤の治療・放射線治療も外来で行なわれることが多くなり、普段通りの生活を続けながら治療を受けられるようになりました。
一方、外来で治療を受ける場合は、入院で行なう場合に比べて医療者と接する時間が短くなるため、十分に療養相談ができない、治療による副作用や、徐々に表れる症状への対応が遅れることがあるなどの問題があります。
先の見えないがんの治療を行っている際は、落ち込んだ気分がなかなか回復せず、日常生活に支障を来すことも少なくありません。外来での短時間の会話の中では、病気についての疑問や不安など、必ずしも十分に意思を伝えることができないことも考えられます。
また、治療を受ける病院が自宅から遠く離れている場合は、度々通うことが難しくなり、きめ細かな症状の経過観察ができなくなる可能性もあります 。
そのような場合は、自宅近くの身近な医療機関が、積極的な治療を行っている基幹病院と連携を取り、「がんかかりつけ医」として機能すれば細やかなサポートが可能となってきます。
現在の病変の状態、予測される症状などが双方の医療機関で共有されていれば、どちらの病院でも対応を受けることが可能です。治療中の心配事、ちょっとした体調の変化などを気軽に相談に行けるところがあると、少しでも苦痛を和らげる手助けとなるはずです。それが、昔から馴染みのあるかかりつけ医であれば、なおさらです。
また血液検査などの経過観察も、治療を受けている病院まで通う必要はなく、もしも身近な病院で行なうことが可能ならば、身体面・精神面ともに大きな負担軽減に繋(つな)がると考えられます。
治療を受ける基幹病院、それから身近なかかりつけ医、それらの医療機関が十分な連携を取ることが前提になりますが、最近は「地域連携室」というような場を持つ病院も多く、適切に連携を取る手伝いをしてくれる所もあります。
がんの治療、ことに進行・再発がんの場合は、一ヵ所の病院で全うできるというものではありません。その時々に応じた場を選択することが、質の高い生活を送ることに繋がります。
選択肢が拡がった療養形態。医療者と
よく相談し、一番適切な療養方法を
癌の治療を受けるにあたって欠かすことができないのが、緩和ケアです。 緩和医療については前回も書きました。がん性疼痛(とうつう)などの痛みの緩和ももちろん重要ですが、がんによる痛みは身体の痛みだけではありません。広い意味での緩和ケアは、がんと診断された当初から療養のサポートをすることです。
平成24年6月の『がん対策推進基本計画』の中にも、がんと診断された時からの緩和ケアの推進が、重点的に取り組むべき課題として取り上げられています。診断から治療の全ての時期を通じて、痛みなどを和らげる緩和ケアを取り入れて苦痛を軽減することで、患者さんとその家族が、少しでも質の高い生活を送ることが可能になります。
積極的治療の後の進行・再発がんの緩和医療も、患者さん本人の希望があれば、入院せず在宅のままで自宅近くの診療所外来で受けることが可能です 。
自宅での治療を選択した場合、医療保険で訪問診療・訪問看護を利用できるほか、介護保険サービスが利用できます。
この場合、65歳以上(第1号被保険者)だけでなく、40歳から65歳未満( 第2号被保険者)であっても、がんの末期であれば介護認定を申請し、利用することが可能です。
具体的には、自宅内に電動ベッドやポータブルトイレの設置、車いすの利用、それからヘルパーの導入など、自宅での療養環境を整えることができます 。
状態の良いときは外来で受診することもできますし、状態が悪化してきた場合には、訪問看護、訪問診療などを病状に応じて取り入れ、最期まで自宅での療養が可能です。
自宅療養の場合、家族の介護負担が増えること、入院に比べて急変時の対応に時間を要するなどの問題もありますが、何よりも住み慣れた家で家族との生活が送れるのが利点です。
緩和ケアの目標は、患者さんと家族の身体的・精神的な苦痛を少しでも減らし、社会的・経済的な支援をしながら、診断から最期までの限られた期間をより良い生活環境で過ごしてもらうことにあります。がんと診断された時から、治療、在宅医療など様々な場面で切れ目なく実施される必要がありま す。
進行・再発がんの療養にあたっては、現在いろいろな選択肢があります。そもそもがんの療養は、その人それぞれで、がんの種類や病気によっても、またその人の考え方、生活環境などにより様々です。
住み慣れた家庭や地域での療養や生活を望む人もあれば、病院で過ごしたいという場合もあります。その人の希望する療養携帯を選択することが、だんだんと可能になってきています。身近な医療者とじっくり相談しながら、それぞれの人に一番適切な方法が選択できることが望ましいと思われます。