診療室から Vol.39 点眼薬

たかが目薬、されど目薬 正しい点眼で快適な毎日を

薬は内服薬のように全身に効く物と
点眼薬のように局所に効く物がある。

 身体の具合が悪い時、皆さんは病院に行き、処方された内服薬を服用して治しますが、目の病気の場合は、眼科で点眼薬や眼軟膏(なんこう)を処方され、それを点眼、点入して治します。  
 薬には、内服薬、座薬、点滴などのように、全身に投与して効かせる薬と、湿布、(眼)軟膏、点眼、クリーム、ローションなどのように、局所に直接作用させて治療する薬の二つに大きく分けられます。それぞれ、目的と必要性からその用途を使い分けます。  
 口から入れた内服薬は、腸に至るまでの消化管で主に吸収されます。そして吸収されてから分解され、排泄(はいせつ)するまでの間に全身にめぐり、効果を発揮します。座薬も内服薬と同じように、直腸(大腸の一部)の吸収力を利用します。  
 また、点滴は、血管(体)内に薬を直接入れるために、正確な体内濃度と時間を決めて投与することができます。しかし、管理が大変です。  
 それに対し、局所に投与する薬は、その目的の場所のみに薬剤を浸透させて治療を行ないます。点眼薬や眼軟膏は、局所作用薬ですので、後者の部類に属します。  
 眼球の表面の角膜は、透明で血流がありません。そのために、血行的には作用させにくい部分です。それ故に、眼科医にとって、点眼薬は直接患部に投与できるすばらしい方法です。  
 このため、私達の使い分ける点眼薬、眼軟膏など眼科用剤は、検査薬も含めますと数十種類にも及びます。

充血は目の異常を示す大きなサイン。
軽く考えないで、充血の元の治療を。
 
 点眼薬は大きく分けて市販用と医療用があり、効能、効果や薬の濃度が異なります。点眼薬の成分は、主作用をする薬剤、それを溶かす薬剤、安定剤、防腐剤などからできています。  
 白内障の点眼薬は、進行の予防のために長期間にわたって使用します。また、緑内障の点眼薬は種類が多く、中には全身作用が出る薬が多くあります。用法を必ずメモをし、その通りに点眼して下さい。  
 特に、商品名でチモプトール、ミケラン、コソプト、デュオトラバなどのβブロッカーを含んだ薬は、喘息(ぜんそく)、心疾患、糖尿などに影響します。内科の先生と相談の上で使用し、処方された医療用点眼薬は、何の薬かをよく聞いて下さい。  
 これら全身作用の出やすい点眼薬は、点眼後、目頭を約3分は抑えて下さい。確実な効果を得る目的と、鼻から喉(のど)へ流れた目薬が全身作用を起こすのを予防するためです。緑内障の点眼に限らず眼の命に係わる大切な薬は、必ず予備を必ず持ちましょう。まれに、点眼をせずに症状が悪化した人がいます。  
 また、手術後の点眼薬や感染性の結膜炎(眼脂)の薬は、決められた回数や期間を守り、治癒後は必ず捨てて下さい。  
 アレルギーの薬は、かゆみを抑える薬とかゆみ自体を起こりにくくする薬があります。スギ花粉症など季節性の人は、シーズン前に受診し、症状が出にくくする薬を点眼するとその期間が楽に過ごせます。  
 近視、調節痙攣(けいれん)の点眼薬は、寝る前にします。この薬を用いるのはある程度の期間です。子供の場合は、その後は目に合った眼鏡をかけさせて下さい。その他、特殊な結膜炎、眼瞼(がんけん)炎、流涙や、コンタクトや眼精疲労などの薬は、それぞれに注意して使用して下さい。  
 市販の点眼薬は、基本的には医科向けの薬の中で危険性の少ないもので、その濃度は半分から1/4程度です。その上に香料、着色料、清涼剤などが入っています。特に、清涼感を出すためにメンソール(ハッカ)を含んでいる製品があり、かぶれる人もいます。ハッカ成分は、医療機関向けの点眼薬には全く入っていません。  
 また、抗菌目薬に使われているサルファ剤は耐性のある菌が多く、効果が少ないため現在、眼科医では処方しません。  
 そして結膜(白目)の充血を抑える目薬の中には、血管を収縮させる薬剤が入っています。これは、充血を起こした原因を治療せずに、充血だけ抑え込むため受診が遅れ、症状を悪化させることがあります。充血は目の異常の大きなサインですので、軽く考えないで下さい。  
 また、ドライアイなどで目の乾燥を防ぐ薬として、涙と類似成分の点眼薬が市販されています。充血、痛みなどの症状がなく、使用して違和感がない時はよいでしょう。防腐剤の入っていない物もあります。

下まぶたのポケットには、ちょうど
1回1滴・40~50μlの適量が入る。
 
 正しい点眼方法は、基本的には1日3~5回で、1回1滴を結膜嚢(のう)と呼ばれる所に入れます。結膜嚢とは、白目の表面を覆っている結膜が奥で折り返り、まぶたの裏まで続いています。  
 点眼する時は次の順でします。
①手を洗い、壁際の椅子(いす)に座る。
②右利きの人は左手の人差し指で下まぶたを軽く引き、ポケットを作る。
③頭を後ろに倒して壁に当てて安定させる。
④点眼瓶を持った手を左手甲の上に載せ、まつげなどに当たらないようにさす。
 このポケットには、ちょうど1滴の量(40~50μl)が入ります。  
 ここに入った目薬は、角膜、結膜を通して眼球の表面から中に浸透して効果が出ます。そして約5分後には、8割以上が涙と共に目頭の涙点から鼻、喉に流れていきます。入れ過ぎは、こぼれて目の縁に薬が付いてかぶれたりします。  
 何種類かの薬を続けて点眼する時は、前の薬を押し出すことになりますので順番と間隔(5分間)が重要です。特殊な緑内障の点眼薬の中には、肌に付くとシミになることが報告されています。こぼれたら顔を洗ってから再度点眼します。
 お母さんが一人で子供に点眼する時は、子供を寝かして頭のほうに正座し、両膝(ひざ)で頭を挟み、両腕、身体を肘(ひじ)で軽く抑えるかバスタオルなどで体を巻くかして点眼します。もしくは逆に胸の上に軽くまたがって座り、膝で両肩を挟んで点眼して下さい。  
 目を開けてくれない時は、目頭に落としてパチパチさせると自然に入ります。寝入りばなに点眼するのもよいでしょう。冷蔵庫から出してすぐの目薬は、冷たく嫌がる原因になるので人肌に温めて下さい。  
 点眼薬によってはしみることがありますが、これも個人差があります。このような症状は薬の効果とは関係はありません。  
 点眼薬は、使用後は袋に入れ涼しい所に置いておきます。また治療終了後の目薬は、中に空気の雑菌も入っていますので、1カ月くらいで捨てて下さい。  
 点眼瓶に記載されている有効期限は、未開封の時です。冷暗所にしまっておくとその年月までは持ちますが、開封後は劣化が始まります。  
 また、古いのや他人の点眼薬は汚染されていて、病気をもらうことがあります。たかが目薬とお考えでしょうが、されど目薬です。点眼薬にかぶれて、その治療薬にさらにかぶれて……という悪循環にならないようにして下さい。眼科医と相談をして快適にお使い下さい。


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