診療室から Vol.31 病院との上手な関わり方

患者は医師を選ぶことができるが
医師は患者を選ぶことはできない。  
 数年前より、教育界で問題になっている「モンスターペアレント」。これは、学校や教師に理不尽な要求や暴言、暴力を振るう親御さんを、怪物にたとえて言い表した和製英語です。それが、最近では医学界にも起こり、「モンスターペーシェント」と呼ばれる患者さんの増加が問題になってきています。  
 患者さんは医師を選べますが、医師は患者さんを選べないのです。しかし、医師も人間ですので、患者さんとの信頼関係をどのように築いていくかという課題もあります。  
 では、医師から最良の治療法を引き出させる「得する患者」になるためにはどうすればいいのでしょうか。私の周りの医師に「嫌われる患者」はどんな人なのかを尋ねてみました。  
 まずは思い込みの強い患者さんです。特にテレビ番組「本当は怖い……」 の放送日翌日や、テレビの広告や新聞などで仕入れた、断片的な知識を振りかざす人は困りものです。  
 また、インターネットで調べ、何枚も印刷して持って来る人がいます。医師は診察中に、その内容が正しいかどうか判断する時間はありませんし、一般論と個別は異なること、印刷物程度のことは、年月をかけ学んでいると言いたくなるそうです。  
 こんな例もあります。術前や手術には来なかった息子さんが、ご高齢の母親が術後に徘徊(はいかい)をするようになったのは手術のせいと思い込み、担当医に怒鳴り込んで来ました。ケンカ腰では担当医も不愉快です。後日、別の病院で処方された精神安定剤を、昼間に勝手に服用して夜寝れずに不安定になったと判りました。  
 お互いのために、家族が医師と前もって面談し、理解し合うことが大切です。特に高齢者や重病の場合は、家族が本人に代わって、医師と積極的に関わったほうが良いと思います。

ドクター廻りはお金と時問の無駄。
一人の医師にじっくりかかるのも大切。  
 次に、検査を要求する人です。当直医に、「1週間前に頭を打ったので、すべての検査をしてほしい」という人がいます。一般的に、頭部打撲で命の危険がある場合、24時間以内に処置が必要です。翌日出直すように話しても、納得しなかったそうです。この場合は経過観察が正解です。救急は、あくまでも救急で使ってほしいものです。  
 また、気軽に、ささいな理由で検査の予約を変更する患者さんがいます。担当医が、症状から診断のために検査が必要と判断し、予約するのは意味があります。
 たとえば、採血→予約心電図→予約エコー→診察→治療方針→手術予約などと、せっかくの治療方針決定が遅くなります。検査日の変更は、他の検査待ちの患者さんにも多大な迷惑をかけていることを知ってください。  
 よく変更される患者を差別する医師は少ないですが、度々すると不真面目な患者とスタッフに認識されてしまいます。  
 ドクター廻り、いわゆるジプシー患者さんです。A大学で検査し、次はB、C、Dに紹介してほしいと言う人です。方々(ほうぼう)に行かず、一人の医師にじっくりとかかることも大切です。お金と時間の無駄遣いになります。  
 セカンドオピニオンは、「高いレベルの治療を受けるための紹介」と現在も誤解されています。正しくは「今行なわれている治療が、自分に合っているか否かを確認するのが目的」です。診察を受けに来て、早々に「セカンドオピニオンの紹介状」と言われても、詳細な紹介状を書くこともできません。  
 逆に、医師との良好な関係を崩すのが恐くて、他の医師の意見を聞きたいのにできないと思っている人がいます。「私は今のままでもいいが、周囲が気にしてくれて……」と、上手に第三者の意向として告げるのも良いかもしれません。
 さらに、メールでの受診の予約受付をしている医院に、病状の相談メールを送り、その上に返事が来ないと怒る人がいるようです。診断を無料で、ましてやメールで答えられる訳もありません。

病気を理解し治そうと懸命な人には
医帥もスタッフも、一所懸命になる。
 
 では、どうしたら医者を上手に使えるでしょうか? 医師にとっては、初診時の、紹介状や問診票、診察室での対話は、正確な診断治療をするために重要な位置を占めています。しかし、ゆっくり患者さんとの時間が取れないのが現状です。  
 そこで、医師との上手なコミュニケーション法、「得たい答え」を的確に得るには、たとえば、紙1枚程度に短く4~5項目の箇条書きで、聞いている病名、今までの経過、病歴、常用の薬名か薬手帳、欲しい答え2~3項目。これを前もって、受付か看護師に手渡すことです。  
 紹介状は必ず受付に出してください。これによってスタッフが、事前に予想される検査の心積もり、段取りができます。また、今かかっている隣の病院に行きたい時にも、紹介状を持って行くことです。経過が分かり無駄な検査がなくなります。そして、元の先生にも戻りやすく、先生同士も話ができます。  
 入院している時に担当医を変えてほしい時にも、いきなり部長を呼んだり、事務に駆け込む前に、看護師に理由を述べて相談すると、上手に上席医師に話を持って行ってくれます。  
 私も看護師から情報を得て、表立ってすぐの変更は難しくても、折を見て変えたこともあります。若手医師にもプライドがありますので、上手にコミュニケーションを取るといいと思います。  
 また、看護師や受付の人と上手に付き合うことです。「がんばっているね」「ありがとう」「ご苦労様!」「笑顔が素敵ですね」などと……。スタッフへのねぎらいの言葉で、実はうまく診察が廻ります。実際に予約や検査などの説明をして治療をスムーズにしているのは、看護師や検査、事務の人達です。  
 入院して、「いきなり部屋を変えろ!」と言っても、これは通りません。その時は、「いびきが」「ラジオの音が」「トイレの臭いが」などと、看護師に相談しましょう。  
 最後に、近隣の先生や病院の悪口を言う方です。次は自分の番かと思います。
 医師も人間です。患者さんが、自分の病気を理解しようと一所懸命だと、きちんと答えます。スタッフも、一所懸命になります。しかし、いつも診察なしで「診察の待ち時間が長いので、薬だけを出してほしい」と望む人は、医師の患者さんに対する責任感が薄れます。  
 また投薬、食事、運動療法などの指示を守らない人がおります。何故(なぜ)守れないのか、その改善方法を担当医と真剣に相談しなければ、医師のやる気も減ります。  
 また、服用中のバラバラの薬を診察時に出す患者さんがいますが、急には調べられず診察が中断します。受付か看護師に相談してほしいと思います。  
 受診して「早く手術を……」と、そんなことになる前に、健康なうちから、年に一度はかかりつけの医者の検診を受けて、病気には関係ないと思われることでも、少しずつでも話してください。私達には、早く治ってくれる人が、一番良い患者さんなのです。


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