診療室から Vol.25 脳卒中

「少しくらい……大丈夫」が 知らぬ問に大変なことに?

脳卒中は脳出血と脳梗塞に大別。
脳出血はもろい血管が裂けた状態。

 今回は、ある日突然、半身が動かなくなる、ろれつが廻らなくなるという、そんな症状を引き起こす疾患の一つの「脳卒中」についてです。  
 脳卒中とは脳の血管が詰まったり、破れたりして、その血管に養われていた細胞が損傷を受ける疾患です。日頃よく耳にする疾患の一つですが、その症状は様々です。  
 脳というのは、ご存知のように色々な神経の働きをつかさどる中枢です。身体を動かすこと、見たり聞いたり触ったり、色々なことを感じること、それから内臓の動きも神経によって支配されています。それらのあらゆる神経が、場所を決めて脳の中に配置されています。  
 損傷を受けた場所に配置された神経がつかさどる分野で様々な症状が現れます。運動にかかわる場所であれば片側の手足のしびれや麻痺(まひ)が、言語にかかわる場所であれば言葉が出なくなったり、相手の言葉が理解できなくなることもあります。その他、物が二重に見えるというような症状もあります。同じ脳でも小脳の損傷の場合、麻痺はないのに、ふらふらして立ち上がれなかったり、歩けなくなったりします。このような症状を失調といいます。  
 脳卒中は大別すると、脳出血と脳梗塞(こうそく)に分けられます。脳出血は出血の部位により、脳内出血、くも膜下出血に、脳梗塞はその閉塞の仕方によって脳塞栓、脳血栓などに分けられます。  
 まずは脳内出血について説明します。血管が「裂けた」、「破れた」などと表現されるものです。少しもろくなったホースに水を流すと、普通の勢いなら大丈夫でも、思い切り圧をかけて流すと、ホースが裂けて水がもれ出した、そんな状況を想像してみてください。  
 人間の血管も同じように、多くの場合、高血圧が原因となって起こります。ですからじっとしている時より、活動している日中に多く発症します。頭痛やめまい、半身麻痺などの症状のほか、徐々に意識障害が出現することもあります。
 次にくも膜下出血について説明します。私達の頭蓋(ずがい)骨の中におさまっている脳は、脳に近いほうから、軟膜・くも膜・硬膜という三層の膜によって覆われています。  
 このうち、軟膜とくも膜の間(くも膜下腔(こう))に出血を起こすものをくも膜下出血といいますが、その大半は脳動脈瘤(どうみゃくりゅう)(脳動脈の一部が膨らんでできたもの)の破裂によって起こります。動静脈奇形が原因となることもあります。やはり高血圧との関係があります。  
 出血を起こすと、「ハンマーで殴られたような」ともいわれる、突然の激しい頭痛がします。「何時何分から」と分かるような急な発症です。しかし、必ずしも全てがそうではなく、何となく頭が痛いというような例もありますので、注意が必要です。その他、嘔吐(おうと)や痙攣(けいれん)などがみられることもあります。  
 最近は、脳ドックでのMR検査などで動脈瘤が破裂する前に発見されることもあります(未破裂動脈瘤)。この場合、前もって治療するかどうかは、脳外科専門医の判断を仰ぐ必要があります。

脳梗塞は脳の血管が詰まる状態。
生活習慣病の改善と禁煙で予防。
 
 脳梗塞は、脳の血管が何らかの原因で閉塞する疾患です。その発症には動脈硬化が大きく関係しています。動脈硬化によって血管が徐々に細くなり、とうとう閉塞したものを脳血栓、脳以外の部位にできた血栓(血液のかたまり)が、脳血管に詰まる状態を脳塞栓といいます。  
 脳塞栓を引き起こす代表的な疾患が、不整脈の一種である心房細動です。心臓が震えるような動きになって血液がよどみ、血栓が作られます。これが血流に乗って脳血管に詰まるため、症状は突然に起こります。心房細動がみられる人には、血栓を溶かす薬を予防的に投与します。  
 脳梗塞は、その前触れの症状として一過性脳虚血発作がみられることがあります。一時的に手がしびれた、言葉が出てこないなどの症状が出現し、24時間以内に回復するというものです。また箸(はし)がポロッと手からこぼれた、このようなささいな症状も脳梗塞の前触れのことがあります。後に脳梗塞を発症する危険信号になりますので、適切な検査を受けることが必要です。  
 脳梗塞は原因が動脈硬化に起因するため、何度も発症をくり返すことがあります。生活習慣病といわれている、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症)、高尿酸血症などの状態を、適切な治療なしに放置したり、その他、肥満、喫煙などによって動脈硬化は進展します。ですから、これらを改善することが脳梗塞の発症予防につながってきます。
 「少しくらい血糖値が高くても、少しぐらいタバコを吸っていても、何ともないし大丈夫」などと思っていては大変なことになります。知らない問に動脈硬化は進展し、ある日、とうとう脳梗塞を発症してしまうということになりかねません。  
 脳梗塞は、治療の進歩などにより、軽症化する傾向にありますが、命に別状はなかった場合でも、損傷を受けた脳は元に戻ることはなく、何らかの後遺症を残すことになります。多くの場合、発症前と同じ状態には戻れなくなるということです。今と同じ生活を送っていくためには、毎日少しずつ気をつけていくことが大切なわけです。  
 もう一つ、よくみられる脳血管疾患の慢性硬膜下血腫(けっしゅ)について説明します。これは先に記した脳の三層構造のうち、硬膜の内側に血液が貯留し、脳を圧迫するために起こる疾患です。高齢の男性によくみられます。  
 転倒など、何らかの原因で頭部に外傷を受け、その後徐々に血腫が形成され、数過から数カ月後になって、真っ直ぐ歩けないなどの歩行障害の他、認知症のような症状が出ます。  
 それまで普通に日常生活を送っていたのに急にこれらの症状がみられた場合、慢性硬膜下血腫の疑いがあります。この疾患は、診断の後に手術で血腫を取り除くことで症状の改善が望めます。治療可能な認知症症状の一つといえます。

脳出血は高血圧治療で減少傾向に。
脳梗塞は生活習慣病の影響で増加。
 
 脳卒中患者は、現在も増加傾向にあります。高血圧の治療により、脳出血は減少傾向にありますが、脳梗塞は生活習慣病などの影響で増加しています。脳卒中を予防するためには、生活習慣病のコントロールをすること、それから日常生活では食生括の改善(腹八分目、塩分、甘い物、アルコールは控えめに)、肥満の解消、適度な運動習慣、禁煙を心がけてください。  
 脳卒中は、早期に診察を受けること、治療することが、その後の経過にかかわってきます。 発症後数時間であれば、脳の細胞を救える可能性も出てきます。
 脳卒中を疑う症状(片方の手足のしびれや麻痺、言葉が出てこない、口がもつれる、物が二重に見える、めまいがしてふらつくなど)がみられる時は、一刻も早く専門的な診察を受けることを勧めます。


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