
傷んだ血管は元に戻らない 3ヵ月毎の眼底検査が大切
成人型糖尿病の原因は、肥満と遺伝。
静かに進行した糖尿病は悪化の道を。
糖尿病は、膵臓(すいぞう)で作られるインスリンというホルモンの分泌不足から起こる病気です。遺伝や感染症などでも起きますが、ことに、成人型糖尿病の原因としては、肥満と遺伝的素因が挙げられ、現代では飽食から発病する人が増え、日本には700万人の糖尿病患者がいるといわれています。
インスリンは、肝臓や筋肉にぶどう糖を取り込む働きがありますが、不足すると、腸で吸収されたエネルギーの糖が細胞の中に入らなくなり、使われないために血糖値が上昇します。また、体はエネルギー不足になるので、たんばく質などで体力を補おうとして代謝異常を起こし筋肉を油旧化してやせて行きます。
そして、口渇、多飲、多尿の初期症状から、体重減少、動脈硬化、高血圧、腎臓病、神経障害、心筋梗塞(しんきんこうそく)、易感染性(※いかんせんせい)になり色々な病気を引き起こします。しかも、糖尿病は静かに進行し、自覚症状が乏しいので放置しがちになり悪化させてしまいます。
眼科の治療目的は、病状の進行の阻止。
薬餌療法に頼らず、食餌療法を大切に。
眼科健診で糖尿病網膜症が見つかりますが、糖尿病が発病して数年のちには、失明の原因となる網膜症や腎症・神経症を起 こすことがあります。
血管は先に行くほど細くなっていますが、先までできるだけ1本にならないように、人間の体は、たいていは2本以上の血管が支配しています。
しかし眼底の血管は、細い血管が眼底の1カ所から目の内側に入り、上下に分かれ2分岐を繰り返して樹枝状に、扇子状に拡がって細くなって行きます。腎臓の血管も老廃物を濾(こ)すための輸入血管が1本で、輸出血管も1本です。
血糖値が上がると、血管の内側を作る内皮が砂糖漬けで水分が抜け、血糖が下がると細胞は再びふくれます。この繰り返しにより内皮細胞が傷み卦(は)がれます。その壁を修繕するために血小板が集まります。役目を終えた血小板の固まりは、正常なら掃除の細胞によって処理されますが、掃除しきれずに残った血小板の固まりは血栓となり転がって先の細い所で詰まります。
詰まった所の先に栄養が行き渡らないため、バイパスの側副血行路、つまり新しい血管・新生血管を造る働きが生じます。 その血管はかさぶたの血管と同じで最初は作りが荒く、脆(もろ)い血管です。ここから出血が起こり、この繰り返しが長い年月をかけて起こることで、血管瘤(りゅう)や出血、血管の閉塞を生じて、悪循環になります。
そして最後には、血流不足などから細胞が死に、視力低下や神経麻痺(まひ)、腎不全の道をたどります。これは高カロリーの偏った食生活のためや、不規則な生活によって、血糖値の変動が大きくコントロールができていない人ほど悪化しやすくなります。
眼科では傷んだ所をレーザー光線で焼いたり、薬物を眼内に注入して新生血管を収縮させますが、病状の進むのをくい止めるのが目的で、傷んだ神経、血管は元には戻りません。それだけに糖尿病の方は、内科的早期治療に加えて眼底検査(3カ月毎)が大切です。市民健診の血液検査を有効に活用しましょう。
糖尿病はⅠ型とⅡ型に分類され、Ⅰ型の糖尿病は30歳ぐらいまでに発病することが多く、インスリン療法が基本になります。Ⅱ型のインスリン非依存性糖尿病は成人に多く見られ、食餌療法、運動療法が中心となり、必要に応じてインスリン分泌を増加させる内服薬、インスリン療法も行なわれます。つまり、Ⅱ型は薬だけでは抑えきれる病気ではなく、食餌療法が特に重要です。
基本は、食べてはいけないのではなくて
一手間かけ、低カロリーの楽しい食事を。
食餌療法は、まず性別・年齢・身長・仕事内容などから、今までの食餌のカロリーから1~2割減となるように計算します。食事は膵臓の負担を減らし、数回に分けてゆっくりと摂(と)り、腹八分目が理想です。
食事の内容はバランスに気をつけます。ビタミン・ミネラル類は代謝をよくする働きがあります。このためには30品目以上、できれば緑黄色野菜や海草類を欠かさないことです。さらに食物繊維は、血糖値とコレステロール値の低下に有益な効果が知られています。
つまり、野菜を一日に300g以上摂るようにし、ご飯は胚芽米に、パンも玄米パンや胚芽パンに、海草、きのこを十分に活用し、そして果物は適量にします。これらの食物から一日に30g以上の食物繊維が摂れれば治療の上でも良い効果が期待できます。また、魚油にふくまれる成分は糖尿病性腎症に効くとされています。タバコは血管収縮作用があり禁忌です。
糖尿病の方が「食事が難しい」と言うのを耳にしますが、私は「基本は食べてはいけない物はなく、損得を考えてください」と話します。たとえば、菓子、炭酸飲料、アルコールは損な食べ物になります。
料理方法も、炒(いた)め物をする時は水を入れて火を通してから、最後に植物性油を半量かけると油を減らせますし、食感は変わりません。また油揚げと菜っ葉の煮浸しは、油揚げを抜くだけでカロリーは1/4になり、別の物が食べられます。紅茶などの砂糖は始めから入れるのではなく、半分以下に減ったところで好みの味にすると砂糖は半分以下で後口(あとくち)を楽しめます。
単身で外食している男性に、「カツ井はトンカツ定食にすると卵とだしが減る、衣が食べたくなければ生姜(しょうが)焼き定食に、またトンしゃぶにして野菜を増やすと、カロリーは1/3になりますよ。満足度もあまり変わりません」と話します。ちなみに、すき焼きは損、水炊きやキムチ鍋、ちり鍋は得でしょうか?
また、稲荷と巻きずしを3個ずつ食べるなら、江戸前のにぎりのほうがカロリーは少ないでしょう。本格カレーは得、小麦粉の入ったルーのカレーは損。大トロ1切れ、中トロ2切れ、赤身5切れ、イタリア料理のカルパッチョのマグロは重ねても赤身2、3切れ分です。一口と一品のどちらが得かは、本人が決めればよいと思います。
人間の味覚は非常に優れた機能を持っていますが、逆に味は舌に触れている所でしか感じていません。また温度によって感じ方も変わり、甘味は人肌ぐらいが一番感じます。だしを濃い目に取り、一手間をかけた低カロリーの料理を、盛り付けも上手にして、美味しく楽しめるように工夫しましょう。
普段からバランスの良い正しい食生活を続けていれば、この病気になりにくく、たとえ発症しても健康人と同じように生活ができ、合併症も生じにくいといえます。
※易感染性=感染に対して防御力が低下した状態をいい、ニキビができやすく治りにくい、逆むけが赤くなりやすい、風邪をひきやすい、ひげそり負けが化膿しやすいなどの症状が起きやすいのです。