診療室から Vol.18 脂質異常症

食の欧米化が招く脂質異常症 不規則な生活もその一因に

10代に見られる動脈硬化の初期病変。
その比率は中・高生よりも小学生が大。
 2年前から生活習慣病であるメタポリック症候群(肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常)予防のための特定健診が始まりました。メタボリック症候群が問題なのは、いわゆる日本人の三大死因である「がん」「脳卒中」「心臓病」の因になるからです。  
 メタボリック症候群による生活習慣病の特徴は、初期では全く自覚症状がないにもかかわらず、早期から動脈硬化が知らないうちに進行します。また、これらの病気が小児にも増加していることが非常に問題となっています。そこで今回は、生活習慣病の一つである「脂質異常症」について取り上げます。  
 脂質とは、主にコレステロールや中性脂肪のことで、血液検査でそれらの数値が異常の場合を総称して「脂質異常症」といいます。以前は「高コレステロール血症」と「高脂血症」といわれていました。  
 コレステロールには、動脈の内壁に溜(た)まり動脈硬化を促進する悪玉コレステロール・LDLと、その悪玉を動脈壁から取り除き、動脈硬化を防ぐといわれる善玉コレステロール・HDLがあります。心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞の人はLDLが高く、HDLが低いことがよく見られます。  
 HDLの測定は病気の診断のためではなく、動脈硬化の危険因子の状態を判断するためのものです。40mg/dl以下は精密検査が必要な場合があります。  
 HDL値を下げる原因には、肥満、酒の飲み過ぎ、喫煙、運動不足、糖尿病などがあります。飲酒に関しては、「酒は百薬の長」といいますが、少量であればHDLを増やすといわれています。しかし毎日は好ましくありません。週に1~2日の休肝日を設けるようにしましょう。  
 LDL増加の原因は、主に食事からの脂肪の摂(と)り過ぎと体質によるものの二点です。少し難しくなりますが、後者は、LDL受容体という血液の中の因子が遺伝的に少ないために、LDLが肝臓などの内臓器官に受け取られにくくなって、LDLが血中に増加するためといわれています。  
 また、食の欧米化と大量の加工食品により、高カロリー・高脂肪食の摂取が増え、最近の日本人のコレステロール値はアメリカ人に匹敵するか、それ以上のレベルに達しています。  
 10代の子供達のほとんどに動脈硬化の初期病変が見られ、驚いたことに、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症など何らかの異常のある子供達の比率は、中学生、高校生よりも小学生に多いという報告があり、実際、30~40歳代で心筋梗塞寸前で心臓の血管の手術を受ける人や、脳梗塞の人が増えてきています。

超悪玉の酸化コレステロールは要注意。
超悪玉は電子レンジのチンで一気に増加。  

 最近の研究で、コレステロールの中でも、特に「酸化コレステロール」という超悪玉コレステロールが炎症反応を強めたり、動脈硬化やアレルギー反応を誘発したりしている可能性が高いということが判ってきました。  
 酸化コレステロールは、食品を揚げる、焼く、また干したりする際にできます。ファストフードやレトルト食品、揚げ物を二度揚げしたり、電子レンジで温めたりすると、酸化コレステロールを一気に増やしてしまいます。  
 また、マヨネーズやバターが古くなり黄色く透明に固まっている部分や、冷凍食品の揚げ物の衣、インスタントラーメンのめん麺などに使用されている卵黄パウダーにも酸化コレステロールが多いので要注意です。  
 脂肪には、人間が生きるためのエネルギーになる脂肪酸と、いざという時のために、主に体内に貯蔵される中性脂肪があります。中性脂肪は食物からの摂取や肝臓で作られます。  
 中性脂肪が高くなる主な原因は、食べ過ぎ、運動不足、飲酒です。中性脂肪が増え過ぎると、肥満、脂肪肝、動脈硬化促進に繋(つな)がります。  
 また朝食を抜くと、肝臓での中性脂肪やコレステロールの合成が増大します。一日のエネルギー摂取量を同じにしても、食事の回数が少ないほど体脂肪の蓄積が増加して、血中のコレステロールや中性脂肪が高くなります。たとえ、朝食を摂らなくても、結局、間食や夜食などでまとめ食いをして、食事の総量としては、3回食よりも多くなってしまうことがあります。  
 また、限られた時間で食べようとすると早食いになって、満腹中枢に信号が届く前に食べ終えるので、過食になってしまいます。このように、不規則な生活も、脂質異常症の一因になります。  
 食生活改善の方法としては、まず適正なエネルギー摂取を心がけます。自分の標準体重{身長(m)×身長(m)×22}から、プラス、マイナス10%以内に体重を維持しましょう。オーバーする場合は減量が必要です。  
 減量法は、食事の量を控え、運動量を増やします。急激な減量や自己流のダイエットは体調を崩しますので、1カ月に2キロ以内になるよう、専門家のアドバイスを受けるのが理想です。

体内にたまった酸化コレステロールは
緑黄色野菜やきのこ、大豆製品で減少。
 
 次に食べ物ですが、植物油や新鮮な魚を多く摂るようにしましょう。植物油や新鮮な魚の油に多く含まれる不飽和脂肪酸は、コレステロールを減らします。魚の油にはEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)が多く含まれ、中性脂肪の作られるのを抑制したり、血栓を予防する働きも認められています。一方、牛や豚などの動物性の抽はこれらが含まれていませんので、できるだけ控えることを勧めます。  
 酸化コレステロールは、抗酸化作用のある緑黄色野菜、海藻、きのこ類、豆腐などの大豆製品を一緒に食べることで減らせます。  
 これらの食品には食物繊維が多く含まれており、肥満を防ぎ、生活習慣病を予防する、便通を整えるなどの効用があり、その役割は健康な生活を送る上ではとても重要です。便は身体に不要なものですから、何日も便秘をするということは、身体に毒をため込んでいるのと同じです。  
 また、穀類で身体に良いのは、そば、ひえ、粟、麦、米の順です。主食=白米ではなく、麦や雑穀を加えたり、胚芽米を食べるようにするなど、ちょっとした工夫で食物繊維を少しでも多く摂るようにしましょう。  
 遺伝的な体質の場合は、薬物療法が必要となります。また、女性の場合は加齢とともに女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減ります。女性ホルモンには、抗動脈硬化作用や抗酸化作用があるのですが、閉経後に急激にホルモン分泌が減少するために、食餌(しょくじ)療法だけではコレステロールを下げられない人も多いので、その場合も薬剤を使用します。  
 脂質異常症の予防には、以上のようなポイントに留意し、常に健康状態のチェックが大切です。健康診断で脂質異常症といわれたら、まず日々の生活習慣を見直し、食生活、ストレス、運動不足などの危険因子をできるだけ増やさないようなライフスタイルに改善していくことです。


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