診療室から Vol.01 白内障手術

安全と考えられている白内障手術 報道のように気軽に思うのは危険

 白内障について一度書きましたが、以前より手術が身近になりましたので、私の病院での手術を中心にして記してみたいと思います。
 白内障は、茶目の後ろにある、凸レンズが濁る病気です。濁る理由は加齢性(老人性)、糖尿病が主ですが、近年増加のアトピー性の他、膠(こう)原(げん)病(びょう)、薬の副作用、放射線被爆、先天性(胎児感染の先天性風ふう疹しん症候群)などがあります。
 水晶体はチン氏帯で支えられ、この張力の変化で厚みを変化させてピントを合わせます。しかし、この機能も少しずつ低下し、40歳過ぎには老眼を自覚し徐々に濁りが出てきます。これが白内障です。一度濁った水晶体は、ゆで卵のようになり、元に戻ることはありません。
 白内障の濁り方や程度は様々で、年単位で進行するため、放置して良い場合もあります。軽症の時は、点眼薬と内服薬などで進行を遅らせます。しかし、中心部に濁りが出た時は、少しの濁りでもかすんで見え、まぶしくなります。また、濁る場所によっては明所よりも、暗所のほうがよく見えたり、二重に見えたり、近視化することもあります。
 その濁りを取り、そこに人工のレンズを入れる手術が、水晶体超音波乳化吸引術+人工レンズ挿入術です。

【眼内レンズとは】
 摘出した水晶体の代わりに、眼鏡、コンタクトレンズ、眼内レンズの3種類のどれかで補う必要があります。近年は、眼内レンズの手術が広く行き渡りましたので、ほぼ全員が希望されます。
 眼内レンズは、第二次世界大戦中、風防の破片が目に入ったパイロットが、手術をしなくても目の異物反応がなかったことから考えられ、終戦直後イギリスで始まりました。
 最近では、素材の樹脂やレンズ形状の改良がなされ、良くなっています。このレンズは、大きく分けて、樹脂の種類で3種類あります。また手術法で2種類あり、小切開用の折りたたみレンズと約6㎜切開用のレンズとがあります。

【手術時期】
 手術の時期は、その人の職業や周囲の状態を考え、本人が不自由に思った時です。手術が可能な期間は比較的長くあります。0・7~0・8程度見えている人でも、仕事がバスの運転であれば運転免許の更新ができないため、転職か手術となります。しかし、100歳の人なら、0・3でも十分かもしれません。
 基本は、両眼が0・5以下か、ある状況下で見にくくなれば手術したほうがよいでしょう。片眼のみが進行しているのを放置すると、遠近感がなくなり段差で転んだり、事故に巻き込まれることもあるので手術を勧めます。

【手術の危険性】
 手術機器の開発が進み、以前より安全になりました。しかし、高度の技術が要求される顕微鏡下の手術の上、目の中に器具が入るので、昨今の報道のように気軽に考えるのは危険です。
 眼内レンズの手術は、日本では年間60万件行なわれ、入院期間中に死亡する人が1万人に一人です。ほとんどが心筋梗塞(こうそく)や脳出血などですが、麻酔薬や抗生物質のショックが高齢者に起こると危険です。  失明の率は、約5000件に1件で、これは、高血圧や眼内血管の奇形、網膜の動脈瘤(りゅう)の ために脆(もろ)くなった血管が、手術し始めたとたんに大出血するのが原因です。事前の検査では分かりません。
 感染症発生は、約2000件に1件。眼内は薬が効きにくいので、糖尿病などの基礎疾患や、全身の体力の低下の人は要注意です。また術後、緑内障や網膜剥離(はくり)などになるのは、1000件に1件あるとされています。
 レンズの拒絶反応は、樹脂のため他の移植よりは非常に少なく、軽度で200人に一人(治療可)程度です。その中で強い炎症で人工レンズを取り出す人は、500人に一人の割合です。眼内レンズは、水晶体の薄皮を残し、その膜に載せるため、膜や膜を支えるチン氏帯が弱い人は、レンズが安定しないので挿入を中止することもあります。
 私は今までに、白内障の手術目的で来院され、緑内障や網膜剥離、網膜の変性疾患が見つかった人、軽い痴呆(ちほう)の人で手術当日に顔を洗った人、退院後2週間目に、白寿の祝いの会で脳梗塞で亡くなった人、また、入院直前に急死した人などの経験があります。

【手術前】
 手術予定日を決め、胸部X線写真と心電図、一般的な血液検査をして全身的に大きな異常がなければ、次に眼科の検査をします。検査項目は、挿入する人工レンズの度数の決定、目を透明に保つ細胞(角膜内皮)を調べる(コンタクト長期装用者は傷んでいる)、涙の管が通っているかどうか、手術前後で使用する薬の検査です。
 たとえ余命1年と言われても、その間の生活の質のために手術した人もいます。高齢者が多いため、多少のことは本人、家族に告げて話し合って決定します。

【手術】
 手術は局所麻酔で、上(うわ)眼(ま)瞼(ぶた)に隠れる所か角膜に3㎜から6㎜の切開を入れ、そこから超音波乳化装置で濁った水晶体の内部を粉砕、乳化、吸引し、約30~40分で終わります。
 しかし、病室から手術室までを考えると、1時間から1時間半はかかります。本人が緊張して力を入れすぎたり、動いたりすると危険です。

【手術後】
 術直後の安静は1時間程度です。私は翌日に眼帯をはずし、手術後の点眼治療を開始します。洗顔は、傷口がふさがったのを確認した約1週間後、洗髪はその後となります。
 術後の炎症は、たいてい3日目ぐらいが強く現れます。点眼は使用する薬などにより異なりますが、平均3ヵ月から半年間は手術後用の点眼薬を使用しているようです。
 最後に年間数百例の種々の手術をする立場からわがままを言わせてもらいますと、この手術に慎重になる患者さんは、90歳以上の高齢者、本人が迷っている人、全身状態の悪い人、過去に強い炎症のある人、糖尿病のコントロールの悪い人、言うことを聞かない人、私と意思の疎通のしにくい人などです。
 いずれにしても、年間60万人が受けていますし、目の状態によっては他の手術方法をとります。あまり心配をせずに、開業医とよく相談して病院を紹介してもらうか、病院の医師とよく相談することが大切です。


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